2008年11月1日土曜日

未受診妊婦の飛び込み分娩

大学病院ではもう慣れたが(1〜2ヶ月に1人はいる)、昨日は外勤先の個人病院に約8kmを走って着くや否や、未受診妊婦がおいでになったから驚いた。しかも26週、子宮口は全開大、2経産婦。ただちに市立病院に連絡をして了解を得て、救急車を呼んで、ちょうど金曜日なので居合わせた小児科の先生も(車中分娩に備えて)一緒に、救急車に飛び乗った。
本人は急な事態に動転したかびーびー泣いているし、手ぬぐいタオルを頭に巻いた系の夫もろくに説明もされずに不満そうな顔をしているが、かまっていられない。
本気で車中分娩も覚悟したが、案外「まだ産んではいけない」とわかれば人間は分娩も我慢できるのか、15分の救急車道中は陣痛のたびに顔をしかめてはいたが、なんとか市立病院の分娩室に運び込めた。
たいてい母体搬送を送っていく場合は、「当方の力が不十分で管理しきれずこんな夜中にすみません」とか「もうちょっと早い週数でご相談すればこんな緊急事態にならなかったかもしれずすみません」とか、なにがしかの負い目を感じて目を伏せながら送っていくものだ。家族にも気をつかってぺこぺこしたりすることもある。
が、今回はまさに降って湧いた事態で、こっちの管理の不手際もなにもない。堂々と「いやー間に合ってよかったです」とすっかりリラックスして、引継に出てきた女医さんに引き渡した。もちろん手ぬぐい旦那を待つこともしない。さっさと救急車に引き返して、病院に帰ってきた。
よかったとはいっても、病院に戻ったら外来の待ち人数が30人近くにもなり、大混雑状態。これだけの患者さんに迷惑をかけたのだから、飛び込み妊婦の罪は大きい。結局午前の部は午後2時までかかり、おなかのすいた僕ももちろん不機嫌である。

で、たまたま当直室で夜見ていたNHKでもN大病院の産婦人科医の当直一晩ルポの中にも、おー出てきました、飛び込み分娩。18歳の妊婦が陣痛が来て救急車要請。主人公の産婦人科医が、小児科、麻酔科に了解を得て(だいたい週数も胎児の生死も手術の必要性もわからないのに本当に了解を得る必要があるか?受けるしかないだろ)、このあたり墨東の事故を意識した演出くさかったが、結局運び込まれてきて、翌朝無事に分娩。なんとこの飛び込み18歳は顔出し映像。人権感覚に敏感なNHKがこれには驚いた。非難殺到しちゃうよ。
主人公のN大くんも「赤ちゃんが無事に生まれて一緒に喜び合えるのが産科医の一番の幸せ」みたいなこと言っちゃって、非常識飛び込み分娩が一番困るんです、となぜ言わない。「僕はいつでも搬送を受けたいんですけど、他科の都合でダメなときは悔しい気持ちでいっぱいです」みたいなセリフも、自分だけいい格好かよ、と目をむいてしまった。
でも、テレビというのは都合のいいところだけ編集して放映するから、このN大くんもホントはズバズバいいこと直言していたのかもしれないけどね。
ついでに、連続34時間勤務の後もN大くんは外勤当直ににこにこと出かけていったが、ああいうのをあたかも全員の産婦人科医の日常のようにうつすから、誤解を生んで、ますます若手が産婦人科に来なくなるんじゃないのかな。マスコミに「産婦人科医の過酷な勤務実態」がとりあげられるのも善し悪しだな。
ちなみの僕の勤務は、午後の外来も8時までかかって、それから1〜2時間おきに分娩が3件?4件?(わからなくなった)。さらに破水入院、陣発入院と、起こされまくった。インターバルトレーニングのような睡眠で、十分鍛えられました。でも昨日はあくまで特別ですよ。

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