2011年3月25日金曜日

ホルモン療法に対する女性アスリートの誤解

昨日の続きである。
女子長距離選手にホルモン療法をお勧めすると、だいたいこんな反応が返ってくる。

薬の副作用として、体が浮腫んだり体重が増えたりして、選手によっては体質が変わってしまうという話も聞いたのですが?
また長期間無月経の後、自然に月経がきたらどんどん太って走れなくなり、結局辞めてしまったという選手もいるようですが?
競技をするうえでマイナスに働くなら、無月経のままでもいいのでは・・・とコーチに言われたのですが?

この誤解がスポーツ婦人科医が闘わなければならない大きな壁である。
ホルモン剤はすべて同一ではない。
確かに、不用意にピル(特にドオルトンなどの中用量ピル)を内服すると、懸念されているような副作用(浮腫み、体重増加など)がありうる。特に体重の少ない長距離選手にはこうした副作用が強く出るような印象がある。だから私は絶対にいきなり無月経の選手にピルを処方したりはしないようにしている。
実際、無月経に対するピル内服をきっかけに体重増加が進行し競技生活断念に至った選手の話を私も聞いている。


また、自然に月経が再開したということは、練習量が減ったか、摂食量が増えたか、体脂肪量が増えたか、いずれかの場合が多いので、やはりそれをきっかけに(一時的には)走れなくなったのであろう。
決して月経が再開したから走れなくなったわけではなく、原因と結果を取り違えないようにしなければならない。

さて、無月経となってしまった女性ランナーの場合、低エストロゲン状態に対する治療薬は決してピルではない。(更年期のおばちゃまがたに処方されるのと同じ)ホルモン補充療法用のエストラジオール製剤である。製品名でいうとディビゲルとかジュリナ。これは体重増加、むくみ、競技力低下などの副作用の心配はまずない。少なくともオフシーズンから鍛錬期にかけては問題なく使える。
もしホルモン補充療法を継続したままだと体重を減らしにくい、絞りにくい、と感じるならば、レースシーズン中(あるいはマラソンランナーならばレース前1ヶ月)のみは中断してもいいかもしれない。実際そのような治療のサイクルを自分で編み出している一流選手もいる。
ぜひぜひ、ホルモン療法を行うと走れなくなるなどと誤解のないようにしていただきたい。それと同時に、世の産婦人科医が、意を決して訪れた女性ランナーに対して(他の様々な続発性無月経患者に対するのと同様に)ぽーんと考えなしにピルを処方して消退出血をとりあえず起こしておけばいいや、という治療を行わないことを望む。こうした治療が誤解を解くどころかさらに陸上界にはびこる「伝説」の強化につながってしまうのだ。

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