2011年6月3日金曜日

ヤーズの血栓症リスクに注意〜アスリートへの処方をどうするか

昨年11月に発売されたヤーズ®の利点に着目して、特に女性アスリートへの処方を推進しようとしていた自分にとっては、その副作用について衝撃的なニュースが入った。
ヤーズはドロスピレノンという黄体ホルモンを含有している。このドロスピレノンはむくみにくい、体重増加がおこりにくい、というメリットがあるとされている。
しかし、今回BMJという英国の医学雑誌に発表された2つの論文によると、ドロスピレノン含有経口避妊薬(OC)の血栓症リスクが従来型のOCの2〜3倍高いというのだ。

1つめの研究は、英国の一般開業医の診療データベースから、VTEの危険因子を持たない15~44歳の女性で、エストロゲン30μg+ドロスピレノンまたはエストロゲン30μg+レボノルゲストレルを含む経口避妊薬を使用した人々を選出して行われた。
特発性VTEと診断された17人(28%)とコントロールの26人(12%)がドロスピレノンを含む経口避妊薬の現在の使用者で、特発性VTEと診断された44人(72%)とコントロール(88%)の189人がレボノルゲストレルの使用者だった。ケースコントロール分析では、ドロスピレノンの現在の使用はレボノルゲストレル使用に比べ特発性VTEのリスクを3.3倍にしていた。BMI、静脈瘤の既往や喫煙歴、抗うつ薬使用歴などを調整に加えてもオッズ比は3.1(1.3-7.5)とほぼ変化しなかった。リスクは年齢が低い方が大きく、35歳未満の女性のオッズ比は3.7(1.3-10.7)であった。10万人・年当たりの罹患率は、ドロスピレノン使用者が23.0(13.4-36.9)、レボノルゲストレル使用者が9.1(6.6-12.2)となった。

2つめの研究は、米国PharMetrics社のデータベースから得た情報を利用して、ほぼ同様の研デザインで行われた。
特発性VTEと診断された121人(65%)とコントロールの313人(46%)がドロスピレノンを含む避妊薬を、特発性VTEと診断された65人(35%)とコントロールの368人(54%)がレボノルゲストレルを含む製品を使用していた。ドロスピレノン使用群のVTE罹患のオッズ比は2.8(2.1-3.8)になった。やはりリスクは年齢が低い方が大きく、30歳未満では3.7(2.0-6.9)、30~39歳では1.9(1.1-3.3)、40~44歳は1.4(0.65-3.0)となった。10万人・年当たりの罹患率はドロスピレノン使用者が30.8(25.6-36.8)、レボノルゲストレル使用者は12.5(9.61-15.9)であった。

以上、日経メディカルオンライン・海外論文ピックアップ「ドロスピレノン含有経口避妊薬の静脈血栓塞栓症リスクは高い レボノルゲストレルを含む製品の2~3倍」(大西 淳子)から抜粋して紹介した。

全く別の集団を対象とする、ほぼ同じデザインの2つの研究で、同じレベルのリスク上昇が見られたことから、ドロスピレノンを含む経口避妊薬のVTEリスクはレボノルゲストレルを含む製品よりも高いことが明らかになったといえよう。
これを受けてFDA(アメリカ食品医薬品局 Food and Drug Administration)も5月31日に安全性に関する情報を出して、警告を発するに至っている。

研究に用いられたOCに含まれるエチニルエストラジオールは 30μgよりも少量の20μgである点や、若年・非肥満・非喫煙の女性アスリートはもともと血栓症リスクが低い点などから、女性アスリートに対するヤーズの処方をただちに中止する必要はないと思われる。ただし若年者ほどオッズ比が高いという理由が不明であるが、気になるところ。今後の処方をより慎重にしていく必要はあるだろう。


0 件のコメント: